ブームブームキティ 第一章

著者:ウォッチフル・モンク

翻訳:山下 リナ

農家を引退した67歳の日暮 真 三は、最後に三角型のトーストで皿に残った卵の黄身をすくいあげ、食べた。引退してから毎日、同じことの繰り返し。汚れた皿を洗い、コーヒーを淹れ、妻、希喜の待つ裏庭のピクニックテーブルで毎日を過ごしている。乾いた冷たい風が西から吹いてきた。薄い雲が水色の空に縞模様の線を作り、水色の空を灰色に見せた。古い農家を囲む干し草が、緑色の波の様に自然で自由な風に揺れていた。誰もが想像できるありきたりで普段通りの日だった。

ピクニックテーブルの端には12インチの携帯用テレビが鳴り響いていた。耳が聞こえづらい希喜は、熱心にテレビセットの方へ近づき、陳腐で不自然な演技をするメロドラマの俳優に夢中になっていた。真三は周りの音など気に留めず新聞を読みながら、コーヒーを一口二口と飲み、歳をとった犬、ムギの頭を荒々しく撫でた。

後で誰かに聞かれても、真三の注意を引き付けたのは犬の鳴き声だったのか、妻がテレビをいじる音だったのか、彼にも思い出せなかった。

「どうした、何がうっとおしいんだい?」真三はムギへ話しかけた。

希喜がテレビを激しくたたいた時、真三はびっくりした。真三は希喜に、テレビをたたいても電波は良くならないということを何度も伝えていた。もし何か変わるとしたら、テレビの内臓電子機器を緩くしてしまうくらいだろう。

「いつも良いところで動かなくなるんだから。」と希喜は愚痴をこぼした。

「ねぇあなた、これ直せるかどうか…」夫の顔を見た希喜は口を閉じた。真三とムギは空を見上げていた。ゴロゴロと深い音を鳴らし輝く火の玉が、南に向かって空高く飛んでいった。希喜もそれらを見つめ、今見たものが何か確かめようとした。

「飛行機に何か問題でもあったのかしら。私たちの家に向かってこないわよね?」

少しの間をおいて希喜は再び真三に問いかけた。

「こっちに向かってきている気がするわ。あなたもそう思わない?車に乗って逃げるべきだわ…」

「確かにそうだな。」真三はすっと立ち上がり言った。

「お前は車に乗っておけ。ムギも一緒に連れていけ。」

「あなたはどこに行くの?」

真三は歳をとっていたが、とても若々しく、家族経営の農場で何十年間働いてきた証拠だった。

「鍵がなくては運転ができん。猫も助けないかんしな。」と当然のように言った。

薄暗い家に入るとすぐ、真三は何か悪いことが起こるような気がした。猫の気配はどこにも感じられなかった。外に出てみると、その不吉な予感の原因はそこら中にあった。低くゴロゴロと鳴り響く音は雷の轟きへと変わった。空気と地面が揺れているのを感じた。テーブルからテレビとコーヒーカップが鈍い音をたてて落ちた。すべての物が奇妙に感じ始めたとき、真三は2つの影に気づいた。一つは太陽の影。もう一つは…

「なんだっていうんだ、これは!」

落下してきている火の玉は眩い光の玉へと変わり、南の空全体を覆ているようだった。混乱しながらも、真三は手探りで道路へと向かい、車に乗り込んだ。妻が彼を目を丸くしてみていた。ムギは怖がって床にうずくまり鳴いていた。

真三は鍵をさし、エンジンをかけようとしたが…

動かない。

車のメーターを見ながら鍵を数回も前後させるも、車はびくとも動かなかった。ラジオを付けてみるが、これも動かない。

外の音はだんだんと耳を裂くような音へと変わり、光はまるで肌を焼くかのように明るさを増した。

そして巨大な何かが太陽と彼らの間を横切り、それは地球へ突入しようとしているようだった。測りしきれない巨大な物体は頭上を通過すると同時に、何千台ものジェットエンジンが一気に動いているような音が聞こえてきた。

真三と希喜は口を開けて物体が衝突するのを見つめていた。突然黒い雲が現れ、心臓を止めてしまうような爆風が起こった。静けさが戻り、黒雲と太陽だけが残った。